外科・手術の基礎
「綺麗な手術」が、動物を殺すことがある |外科で本当に大切なのは目的を見失わないこと
胆嚢を綺麗に摘出することが手術のゴールになっていませんか?閉塞性黄疸を起こした胆嚢粘液嚢腫で、本当に優先すべきことを症例から解説します。
若手外科医を見ていると、「胆嚢を綺麗に摘出すること」が手術のゴールになってしまっている場面をよく見ます。
もちろん、綺麗に摘出できるに越したことはありません。
しかし、本当に重要なのは、「この手術で、何を解決しなければいけないのか?」を見失わないことです。
例えば、胆嚢粘液嚢腫で閉塞性黄疸を起こしている症例。この症例で最も危険なのは、総胆管閉塞、胆汁うっ滞、肝障害、循環動態悪化です。
つまり、"胆汁が流れないこと"が最大の問題です。
ところが実際の手術では、「胆嚢を破らずに綺麗に摘出したい」という気持ちが強くなりすぎることがあります。その結果、本来優先すべきことを見失い、動物を危険にさらしてしまうことがあります。
この記事では、胆嚢粘液嚢腫の症例を通して、ダメージコントロールの考え方、外科で本当に優先すべきこと、"考える外科"とは何かについてお話ししたいと思います。
胆嚢摘出がゴールではない
胆嚢粘液嚢腫の手術で、若手外科医が陥りやすいのが、「胆嚢を綺麗に摘出すること」そのものが目的化してしまうことです。
しかし、本当に危険なのは何でしょうか?
本当に危険なのは「閉塞性黄疸」である
この病気で最も問題になるのは、次の点です。
総胆管閉塞
胆汁うっ滞
閉塞性黄疸
肝障害
循環動態悪化
つまり、"胆汁が流れない"ことが最大の問題なんです。
胆嚢そのものを綺麗に取ることは、最終目標ではありません。胆汁の流れを再建し、肝障害と循環動態の悪化を食い止めることが、この手術で本当に解決すべき問題です。
「綺麗に摘出したい」が危険になる瞬間
実際の手術では、「胆嚢を破らずに綺麗に取りたい」という気持ちが強くなりすぎることがあります。
すると、次のような状況でも、予定通りに進めようとしてしまいます。
癒着が強い
剥離層が分からない
出血する
思ったより難しい
その結果、手術時間が延びる、麻酔が不安定になる、血圧が下がる、循環が崩れる、ということが起こります。
若手ほど"術式"に固執しやすい
若手ほど、術式に固執しやすい傾向があります。
教科書通りにやりたい
綺麗に摘出したい
破らずに終わりたい
その気持ち自体は悪いものではありません。
しかし、本当に重要なのは、「今、この動物を助けるために何を優先するか?」です。
外科では、「今、何を優先するか」が全て
私は危ないと思った時には、考え方を切り替えます。いわゆる、ダメージコントロールです。
私は危ないと思ったら、ダメージコントロールに切り替える
具体的には、次のような対応をします。
胆嚢を一旦開ける
内容物を減らす
デブリをフラッシュする
胆汁の流れを作る
ドレーンを設置する
そして、一旦閉腹する。
もちろん、それでも助からないことはあります。
「まず生かす」という発想
ダメージコントロールの本質は、「完璧を目指さない」ことです。
完璧な摘出より、循環の維持
完全な剥離より、麻酔時間の短縮
一回で終わらせるより、二回に分けて確実に生かす
この発想は、若い頃にはなかなか持てません。
しかし、症例を多く見てくると、「綺麗にやろうとして死なせる」より、「不完全でも生かして帰す」方が、最終的な予後が良いことが分かってきます。
綺麗な手術より、"生きて終わる手術"
外科の本質は、手術を綺麗に終えることではありません。
その動物が、手術台から生きて降りられること。そして、できるだけ良い状態で家に帰れること。それが、外科の本当のゴールです。
優先順位を間違えると、綺麗な手術記録は残せても、動物は失われます。
予定通りにいかない時、本当の外科力が出る
外科は、予定通りにいかないことの方が多いです。
外科は、想定外の連続である
術中には、次のような"ズレ"が必ず起こります。
癒着
出血
解剖の違い
麻酔変化
教科書通りに進む手術の方が、むしろ稀です。
だからこそ、術前に想定したプラン通りに進められなかった時、何ができるかが問われます。
「予定通りに進める外科医」より重要なこと
私は、「予定通りに進める外科医」より、「予定が崩れた時に、優先順位を切り替えられる外科医」の方が、本当に上手い外科医だと思っています。
予定通りに進むのは、外科医の腕ではなく、症例の運です。
予定が崩れた時に、どう判断するか。その判断の質こそが、外科医の本当の実力です。
私は、"考える外科"を伝えたい
綺麗に摘出できたか。破らずに終われたか。それも大切です。
しかし、外科で最も重要なのは、「その動物を助けるために、今何を優先するか?」を見失わないことです。
オペ思考
病態理解
ダメージコントロール
私は、これこそが"考える外科"だと思っています。
そして、若手の先生方には、術式を覚えるだけではなく、術中に考え続ける外科を身につけてほしいと思っています。
まとめ
胆嚢粘液嚢腫の手術で本当に優先すべきなのは、胆嚢を綺麗に摘出することではなく、胆汁の流れを再建し、動物を生かして帰すことです。
最大の敵は閉塞性黄疸であり、胆汁うっ滞である
「綺麗に取りたい」という気持ちが、循環を崩す原因になることがある
危ないと思ったら、ダメージコントロールに切り替える
完璧な手術より、生きて終わる手術を優先する
予定が崩れた時に、優先順位を切り替えられることが本当の外科力
外科では、「何ができるか」より、「今、何を優先すべきか」を考え続けることが、動物を助けることにつながります。
