外科・手術の基礎

「綺麗な手術」が、動物を殺すことがある |外科で本当に大切なのは目的を見失わないこと

胆嚢を綺麗に摘出することが手術のゴールになっていませんか?閉塞性黄疸を起こした胆嚢粘液嚢腫で、本当に優先すべきことを症例から解説します。

著者 Dr.Torisu公開 2026.06.07更新 2026.06.08
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「綺麗な手術」が、動物を殺すことがある |外科で本当に大切なのは目的を見失わないこと

若手外科医を見ていると、「胆嚢を綺麗に摘出すること」が手術のゴールになってしまっている場面をよく見ます。

もちろん、綺麗に摘出できるに越したことはありません。

しかし、本当に重要なのは、「この手術で、何を解決しなければいけないのか?」を見失わないことです。

例えば、胆嚢粘液嚢腫で閉塞性黄疸を起こしている症例。この症例で最も危険なのは、総胆管閉塞、胆汁うっ滞、肝障害、循環動態悪化です。

つまり、"胆汁が流れないこと"が最大の問題です。

ところが実際の手術では、「胆嚢を破らずに綺麗に摘出したい」という気持ちが強くなりすぎることがあります。その結果、本来優先すべきことを見失い、動物を危険にさらしてしまうことがあります。

この記事では、胆嚢粘液嚢腫の症例を通して、ダメージコントロールの考え方、外科で本当に優先すべきこと、"考える外科"とは何かについてお話ししたいと思います。

胆嚢摘出がゴールではない

胆嚢粘液嚢腫の手術で、若手外科医が陥りやすいのが、「胆嚢を綺麗に摘出すること」そのものが目的化してしまうことです。

しかし、本当に危険なのは何でしょうか?

本当に危険なのは「閉塞性黄疸」である

この病気で最も問題になるのは、次の点です。

  • 総胆管閉塞

  • 胆汁うっ滞

  • 閉塞性黄疸

  • 肝障害

  • 循環動態悪化

つまり、"胆汁が流れない"ことが最大の問題なんです。

胆嚢そのものを綺麗に取ることは、最終目標ではありません。胆汁の流れを再建し、肝障害と循環動態の悪化を食い止めることが、この手術で本当に解決すべき問題です。

「綺麗に摘出したい」が危険になる瞬間

実際の手術では、「胆嚢を破らずに綺麗に取りたい」という気持ちが強くなりすぎることがあります。

すると、次のような状況でも、予定通りに進めようとしてしまいます。

  • 癒着が強い

  • 剥離層が分からない

  • 出血する

  • 思ったより難しい

その結果、手術時間が延びる、麻酔が不安定になる、血圧が下がる、循環が崩れる、ということが起こります。

若手ほど"術式"に固執しやすい

若手ほど、術式に固執しやすい傾向があります。

  • 教科書通りにやりたい

  • 綺麗に摘出したい

  • 破らずに終わりたい

その気持ち自体は悪いものではありません。

しかし、本当に重要なのは、「今、この動物を助けるために何を優先するか?」です。

外科では、「今、何を優先するか」が全て

私は危ないと思った時には、考え方を切り替えます。いわゆる、ダメージコントロールです。

私は危ないと思ったら、ダメージコントロールに切り替える

具体的には、次のような対応をします。

  • 胆嚢を一旦開ける

  • 内容物を減らす

  • デブリをフラッシュする

  • 胆汁の流れを作る

  • ドレーンを設置する

そして、一旦閉腹する。

もちろん、それでも助からないことはあります。

「まず生かす」という発想

ダメージコントロールの本質は、「完璧を目指さない」ことです。

  • 完璧な摘出より、循環の維持

  • 完全な剥離より、麻酔時間の短縮

  • 一回で終わらせるより、二回に分けて確実に生かす

この発想は、若い頃にはなかなか持てません。

しかし、症例を多く見てくると、「綺麗にやろうとして死なせる」より、「不完全でも生かして帰す」方が、最終的な予後が良いことが分かってきます。

綺麗な手術より、"生きて終わる手術"

外科の本質は、手術を綺麗に終えることではありません。

その動物が、手術台から生きて降りられること。そして、できるだけ良い状態で家に帰れること。それが、外科の本当のゴールです。

優先順位を間違えると、綺麗な手術記録は残せても、動物は失われます。

予定通りにいかない時、本当の外科力が出る

外科は、予定通りにいかないことの方が多いです。

外科は、想定外の連続である

術中には、次のような"ズレ"が必ず起こります。

  • 癒着

  • 出血

  • 解剖の違い

  • 麻酔変化

教科書通りに進む手術の方が、むしろ稀です。

だからこそ、術前に想定したプラン通りに進められなかった時、何ができるかが問われます。

「予定通りに進める外科医」より重要なこと

私は、「予定通りに進める外科医」より、「予定が崩れた時に、優先順位を切り替えられる外科医」の方が、本当に上手い外科医だと思っています。

予定通りに進むのは、外科医の腕ではなく、症例の運です。

予定が崩れた時に、どう判断するか。その判断の質こそが、外科医の本当の実力です。

私は、"考える外科"を伝えたい

綺麗に摘出できたか。破らずに終われたか。それも大切です。

しかし、外科で最も重要なのは、「その動物を助けるために、今何を優先するか?」を見失わないことです。

  • オペ思考

  • 病態理解

  • ダメージコントロール

私は、これこそが"考える外科"だと思っています。

そして、若手の先生方には、術式を覚えるだけではなく、術中に考え続ける外科を身につけてほしいと思っています。

まとめ

胆嚢粘液嚢腫の手術で本当に優先すべきなのは、胆嚢を綺麗に摘出することではなく、胆汁の流れを再建し、動物を生かして帰すことです。

  • 最大の敵は閉塞性黄疸であり、胆汁うっ滞である

  • 「綺麗に取りたい」という気持ちが、循環を崩す原因になることがある

  • 危ないと思ったら、ダメージコントロールに切り替える

  • 完璧な手術より、生きて終わる手術を優先する

  • 予定が崩れた時に、優先順位を切り替えられることが本当の外科力

外科では、「何ができるか」より、「今、何を優先すべきか」を考え続けることが、動物を助けることにつながります。

この記事を書いた人

Dr.Torisu / 獣医臨床トレーニング

獣医臨床の考え方を、症例と文脈から学ぶためのトレーニングを提供しています。

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